2013年5月21日火曜日

インドの経済統計


経済レポートの作り方


日本にいる時に見えていたインド経済の情報は、専ら証券会社などのアジア各国分析レポートの一部としてでした。セルサイドの証券会社のレポートですので、バイサイド顧客のニーズがなければ基本的にレポートにはならない。この意味で、資本・外貨流入規制が強く、日本人資産のエクスポージャーが他の先進国や新興国と比べ相対的に小さいインドの情報は、日本人にとって非常に限定的だったと言えます。むしろ、先日のエントリーのような基礎的な情報は、公的機関が集約したものがよくまとまっている印象。

レポートを出している公的機関でも証券会社でも、 必ずしも現地に人を派遣しているとは限りません。レポートを出している証券会社であっても、インドをカバーしている方はシンガポール在住だったりします。ではどうやって情報を集めているのか?

答えはそう、インターネットです。公的機関であれ企業であれ、情報はすべからくウェブサイト経由で公開すべし、というのは21世紀の常識。そして重要なのは情報の収集ではなく分析。米国中央情報局(CIA)でも人員の大半は(スパイ活動ではなく)公開情報の分析に携わっているのは有名なお話です。溢れる情報をどのように整理して解釈して役立つ情報として加工するか、というノウハウが情報収集よりもはるかに重要です。もちろんこれは、インドに限ったことではありません。



リンク集


その意味で、以下のリンク集は価値のあるものではありません。インドの市場や経済を分析しようと思ったら、誰もが一通り閲覧するサイトばかりと思います。それでもリンク集をつくるのは、まとまっていたら私自身が便利だからです。ですので、初回エントリー以降も、気づいた情報ソースのリンクは増やしてゆきます。

国外から見たインド経済


IMF World Economic Outlook Reports (WEO)春と秋に公開される国際通貨基金のレポート(直近リリースは2013年4月)。権威だったら世界一の経済レポート。内容によってはリリース直後に市場を動かすことも。このレポートがどこからデータを取得しているかを知ること自体に価値がある。データのダウンロード可能。同じくIMFサイト内のeLibraryで、Directions of Trade Statistics (DOT)International Financial Statistics (IFS)などが利用可能。

ADB Key Indicators for Asia and the Pacific
アジア開発銀行の年次統計。

The World Bank World Development Indicators
世界銀行の年次統計。

BIS Consolidated Banking Statistics
国際決済銀行の国際(クロスボーダー)与信残高データ。


国内の統計


Ministry of Statistics and Programme Implementation
統計事業実施省(という訳でいいんでしょうか?)。国勢調査を含め、様々なデータがある。余談ですが、インドは大臣の数がすごく多くて、 正規の(?)大臣だけで30名以上、大臣と名のつく方は80名くらいいます。統計事業実施省は日本だったら総務省の外局くらいのイメージでしょうね。

Ministry of Home Affairs
内務省のサイト。人口統計。

Ministry of Finance
財務省のサイト。経済白書。財政。

Reserve Bank of India
泣く子もだまるインド準備銀行(中央銀行)。一般的に中央銀行が所管する資金統計の他、SNA、物価、国際収支、外国為替、国債管理など、RBIが公表するデータの理解なくしてインド経済は語れません。

インド自動車工業会のサイト。自動車販売台数の元となるレポートを公表。

中央電気局のサイト。電力需要や消費量は鉱業生産などの代理変数として有効。

石油天然ガス省のサイト。油田などの資源を持たないインドにとって、原油価格や石油製品の需給動向は川下にあたる生産・消費を占う上の鍵。

証券取引委員会のサイト。適格外国投資家(FII)の株式投資フローや最近育成に力を入れ始めた社債市場の取引状況など。

ボンベイ(ムンバイ)証券取引所のサイト。


おまけ:学術論文


以上のリンクをぺたぺた貼る過程で、インドの統計に関してすごくよく調べている龍谷大の児玉さんという方の論文を見つけたので、こちらもリンクを貼っておきます。ここまで調べ上げる根性はないなぁ…
インド統計資料を用いたデータセットの構築(PDF)


さて、これらのリンクをたぐるだけなら日本にいても情報収集+分析はできてしまいます。実際、日本在住の海外担当エコノミストの方々は、年に数回の出張を除けば、そういったスタイルなのではないかと思います。

では、現地に赴任することにどんな意味があるのか? 実は私自身、現地=ムンバイにいることの付加価値を完全には理解できていません。もちろん、ビジネス上の意思決定やコラボの迅速化・効率化を目指すのは当然なのですが、生身の人間と顔を合わせて得るもの、街角景気を体感することなど、 言葉にしにくい付加価値がどこかにあるようにも思えます。数年の赴任期間で、少しずつ理解できればいいと考えています。



本日の一枚

自宅近くで夕方になると開かれる路上八百屋。彩りがキレイ。

2013年4月28日日曜日

米がなくても喰ってゆけます。

よしながふみの食べ物系漫画は、「愛がなくても喰ってゆけます。」が食事場面の臨場感があって面白かったですね。紹介されていたお店は何軒かデートで使(以下自主規制)

ムンバイ食事事情


ムンバイ赴任前、周りのみなさんが最も心配してくださったこと、それは食事(もちろんそれ以外もありますが)。味とかそういうことじゃなくて、正露丸のお世話になるとかそっちの意味で。ですが、赴任して2週間が経過したところで、幸いまだ(?)おなかは壊していません。

「ご飯かパンか」みたいな選択肢でも、パン派の私は日本のお米(モチモチしているジャポニカ米。当地では基本的にパサパサしているインディカ米しか手に入らない)がなくても割と平気なので、「白いご飯が食べたい!」みたいな欲求はないです。食事は美味しいに越したことはないですが、元々食に対する許容範囲が広いのかもしれません。

現在、単身でホテルのレジデンス棟(キッチンや洗濯機がついている)住まいですが、幸い近隣がキリスト教徒の居住区で、意外にも、肉も含めて食材の入手は比較的容易です。何かの理由で買い出しができない場合も、ホテルに頼んでパンや牛乳(ロングライフ※しかありませんが)の入手もできるようです。
 ※生産流通段階でインフラ整備が遅れているインドでは、今日搾った牛乳を明日食卓に届けるということができません。そのため、未開封の状態なら常温で数ヶ月保存可能な滅菌加工されたパックが主流で、これはヨーグルトも同じ。乳製品好きの方にはつらい環境かも。ただし、チーズは割と豊富にあります。

朝食

パンや温野菜を食べるだけでおもしろくないので省略。(でもわりと量は食べる)

昼食

オフィスのインド人女性に聞いたところ、インドはお弁当文化だそうです。なので自宅で作って持ってくる人が多い。駐在員でも家族帯同の方の中にはお弁当持参の方もいるようです。私は近所のケータリングを注文するのが定着しました。自分で買いに行ってもいいのかもしれませんが配達が一般的なようです。小さな違いかもしれませんが、こういったところに人件費の差(=サービス産業の生産性格差)を感じます

Indian Lunch
その名もインディアンランチ
「○○ランチ」みたいのを注文すると、だいたい写真のような組み合わせが紙袋に入って届けられます(食器類はオフィスの備品)。カレー+ライス+ナン(と思っているだけで別の名称かも)+野菜(生か茹でてあるのかよくわからない)+ピクルス、これがデフォルト。右上の白いスープはビニル袋に入って届くのですが、実はなんなのかよく分かっていません。酸っぱいです。セットで200ルピー(400円弱)くらい。

メニューを見ても味も食材もわからないものばかりなので(インド人の同僚も知らないものが多い)、ランチは毎日スリリングで楽しいですよ。ワイルドだろぉ〜?

…。正味の話、味は美味しいです。写真のカレーも見た目ほど辛くなく、魚介系の出汁がよく効いたスープカレーでした。カレーのほか、私の知識ではナシゴレンミーゴレンに見えるサムシングが、「Chinese〜」の名前でメニュー載っています。唯一はっきりしているのは、メニューの横に必ず「Veg(ベジタリアン用)/Non-Veg(ノンベジタリアン用)」が記載されていること。さすがベジタリアン天国インド。

夕食

食べません。写真のものはそうでもないですが、こちらのケータリングのランチはけっこうなボリュームがあります。インドの習慣では昼食は13時からというのと、赴任後の環境の変化も影響していたかもしれませんが、少なくとも過去2週間、夜までおなかが空いたことがありません。飲み会があった日以外、平日の夜はまだ食事をしたことがありません。食事はおなかが空いたら摂るものだと、おばあちゃんも言ってましたし


日本との生活環境の違い


夕食を意図的に摂らないのには、体調管理上の理由があります。これは途上国赴任者は概ね似た環境だと思いますが、通勤は基本的に車で移動します。そうすると、歩くことさえなく一日が過ぎてゆきます。これは太るこれはヤバい。東京では気がつきませんでしたが、朝晩の電車通勤は、それなりにカロリーを消費していたようです。

それほど積極的にスポーツなどするタイプではないのですが、少なくとも赴任期間中は体を動かすことが必要なようです。先週、赴任荷物として航空便で送ったスポーツウェアなどが届きました。通勤は車で移動するのに、汗を流すためにホテルに閉じこもることに若干のいびつさを感じますが、夕食時におなかが空く程度には体を動かしたいと思います。



本日のもう一枚

ムンバイ南部のGirgaonという地域にある革製品を扱うお店で、色合いに魅かれてサンダルを購入。お値段640ルピー(1,200円くらい)。ものによりますが、円の購買力はルピーの2倍〜5、6倍くらいあるように感じます。ただし、ホテルのレストランのように先進国と同水準のサービスを求める場合は相応の値段です。輸入された日本の加工食品(キューピーのマヨネーズとかブルドッグソースとか、明らかに日本人しか買わないもの)は、日本の価格の1.5〜2倍します。

2013年4月22日月曜日

ムトゥ 踊るインド経済(1)


ムンバイ赴任前に知っていたこと


ダニー・ボイル監督のスラムドッグ$ミリオネア(原題: Slumdog Millionaire)は、ムンバイのスラム街で生まれ育った少年が、その過酷な生い立ちの中で身に付けた知識で、大金のかかったクイズ番組を勝ち抜く様子を、発展著しいムンバイの街並とともに描写し、2009年のアカデミー作品賞などに輝きました。とても好きな映画のひとつです。もっとも、この映画を見たときは、まさか自分がムンバイに駐在することになるとは夢にも思っていませんでしたが

ムンバイ赴任前、私は株式や債券に投資する仕事を東京でしていました。その間、ムンバイにも出張で訪れたことがあるので、今回の赴任が初めてのインドではありません。ただ、当時の関心対象はもっぱら市場や経済で、出張も短期間で証券会社などを訪問しただけでしたから、インド社会に対するイメージは「スラムドッグ〜」程度の認識しかありませんでした。

現時点で、インドに入国してから一週間が経過しました。たかだか一週間ですが、私のインド、あるいはムンバイに対する認識はずいぶん変わったように思います。何を見て、何を聞いて、どのように変わったかは、別のエントリーで少しずつ記載します。これから数年間(だと思います)の赴任生活で、認識はもっともっと変わるでしょう。今から楽しみです。

さて、株式や債券に投資する仕事に携わっていたことで、市場や経済を見る際、ほとんどすべてのことを数字に置き換えることが習慣になっています。そこで以下では、私のインド経済に関する理解を、ザックリとまとめようと思います。少々長いので、エントリーは今回と次回に分けることにします。なお、以下の記述にあたっては、経済産業省のサイトジェトロのサイトなどを参考にしています。


インド経済(1)


12億人とも13億人とも言われる人口を擁し、「アジアで3番目の経済大国」と本人たちも胸を張るインド。しかし、世界経済あるいは世界金融市場の中での地位は、少なくとも現時点で、決して優位に立っているとは言えません。

人口ピラミッドが先進国や工業国化した後の中国とは異なり、比較的きれいなピラミッドを保っているため、経済発展に伴った労働力供給や、拡大する中間層の旺盛な消費意欲、すなわち市場という意味で、たいへん魅力的であることは疑いの余地がありません。ところが、どんなに豊富な労働力人口を抱えていようとも、残念ながらそれを吸収する産業基盤が無い

まったく無いということではなくて、利用可能な労働力に対して資本の投下がまだまだ足りない。メディアにもよく取り上げられるソフトウェア産業のように、局所的に「輸出」可能な 財・サービスはあるものの、国全体として労働人口の大きな部分が農村部に張り付いたままになっていることは否定できません。「モンスーン経済」とも呼ばれ、降水量と株価が連動するとも言われます。

インドで英語が使える一定以上の労働者層にとって、英語圏の他の国々で就労可能なのはアドバンテージで、実際、国外所得の国内への送金を示す経常移転収支は貿易赤字を半分ほど埋め、経常収支の安定に寄与しています。これはフィリピンなど国外への出稼ぎ労働者が多い国々と似た構造です。

しかし、大規模な経常移転黒字は、外貨を獲得できるような優秀な人材を吸収するだけの産業基盤が国内に存在しないことの裏返しでもあります。では産業構造がどうなっているかというと、貿易収支の観点からはとてもシンプルで、石油を輸入して(その輸入額よりも小額の)石油加工製品を輸出する。故に貿易収支は常に赤字。以上です。

IT産業は?ソフトウェア産業は?英語圏向けサービス産業は?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。それらはサービス産業や個別企業の成長率を見るならもちろん重要で、実際、経常移転収支と同規模の黒字を、サービス収支も獲得しています。でも、国民経済全体から見るとボリュームが足りない。サービス産業で外貨を獲得したところで、それ以上に石油に払ってしまっている状態です。

加えて、インドは高インフレ国。足下で多少落ち着く気配はありますが、ここ数年10%内外で推移しています。特に、輸入に頼る石油がインフレ動向を握っていて、原油価格が高騰したりルピーが下落すると、たちまちコストプッシュ型のインフレとなります。また、インフラ投資(輸送や貯蔵設備)の遅れから、農村部や低所得層の需要に供給が追いつかないこともインフレの一因と言われています。

実はインフレ問題≒石油価格上昇は政治問題でもあり、石油の輸入価格が上昇した場合は政府は補助金により国民の不満に答えるのが常態化しています。これは経済政策というより社会政策で、政体は民主主義でありながら社会主義的色彩が強い政策です。結果的に財政赤字の要因となっています。

(次回は、以上の理解を元に、為替や金利、さらに、望まれる経済政策についても記載します)



本日の一枚

ムンバイ南部にある世界遺産、チャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅(旧ビクトリア駅、1881年建造)。壮麗なヴェネチアゴシック様式。なのですが、駅なのに改札というものがなく、駅舎の中は切符を求める人、電車を乗り降りする人、床に車座になって食事する人々などが入り交じってほとんどカオス。プラットホームに入場するには5ルピー必要です。

2013年4月21日日曜日

インドについて語るときに僕の語ること


はじめに


村上春樹が特に好きなわけではありません。むしろ村上ジョージが好きです。そんな私が 2013年4月から、インドのムンバイに駐在員として赴任することになりました。ムンバイという意味でも、海外赴任という意味でも、現地体験ブログを綴られている諸先輩はたくさんいらっしゃいます。どうやら、人は海外に居住するとブログを始めたくなるようです。

当ブログ開設の趣旨は、私というフィルターをとおして濾過された情報を、記録として残すことにあります。後から振り返ったとき、「あの時はこんなふうに感じていたんだ」「ずいぶん考え方が変わったな」という具合に、変化を認識ができれば良いと思います。同時に、このブログを読んでくださるみなさんに、いかなるかたちでもお役に立てれば、それはとてもうれしいことです。



お約束 


ブログ開設にあたって、いくつかお約束を設定します。

  • 守秘義務の遵守
  • 最低限の匿名性の確保
  • 公序良俗の遵守

私は日本を本拠地とする企業から派遣された職員です。仕事上知りえた情報について、あたりまえに所属企業に対して守秘義務を負いますので、基本的に仕事に関連したことは書きません。場合によっては、人間関係そのものが守秘義務を構成することもあると思います。ですので、私個人の属性を含め、原則、人物の固有名詞には触れません。

一方で、外務省のサイトによるとムンバイに在留する日本人は650人(2012年10月時点)と少なく、読む方によっては、所属企業などの属性はすぐにお分かりになるかもしれません。また、元々私個人をご存知で、SNS経由で当ブログをご覧頂いている方には、ブログの存在自体、隠す意図はありません。

ただし、ブログという、どなたにでもご覧頂ける状態にする以上、公序良俗に反したり、読み手に不快感を与えることは本意ではありません。コンテンツは、現地で見聞きしたことや、日本企業の駐在員としての体験談を中心とする予定ですが、例えば、日本人が日本語で綴るという性質上、現地の方が違和感を感じることを、他意無く記載することがあるかもしれません。そのような時は、どうぞコメント欄にご意見お願いいたします。


以上を要約し、匿名ブログではあるが、誰に読まれても困らない、ことを当ブログの基本方針とします。

フラットなネット空間にはやや不釣り合いですが、自分の心に鍵をかけるため、「お約束」として当ブログ運営上の遵守事項と基本方針を記述しました。あわせて、当ブログに記載する内容は、私が所属するいかなる企業等の見解を反映するものでもなく、すべて個人の見解であることを、ここに明示いたします。



本日の一枚

ムンバイはインドの西側に位置していてアラビア海に面しています。この夕陽の向こうはアフリカと思うと、ずいぶん遠くまで来たなと思いました。